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野辺の民藝

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)




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(8)弥生の小壷


 ぼくの一人娘の亭主は、飛行機野郎である。ショーをするから見においで、という。航空ショーなんて、見たこともないから、カミさんと泊まりがけで出かけた。「4番機で飛びます。最後に上がりますから、お見逃しなく」。1番機から3番機までは、次々に上昇する。が、4番機は現れない。機材の故障かと心配しているところへ、ひょっこり本人が現れた。
「飛ばなかったじゃないか?」。「いえ、もう終わりました。離陸したら、ほぼ垂直に上がって、富士山より少し高く昇り、駆け降りました」。ほぼ垂直上昇とは! あきれた隼野郎だ。
 この男が百里に勤務した。今の茨城空港である。ちょいちょい行ってみた。都度、あちこち案内してくれる。笠間には腕の立つ陶工が居るし、益子には濱田庄司の益子参考館がある。よく通った。入館回数券が欲しかった。
 展示はもちろん民藝ばかりなのだ。ぼくが一番参ったのは土偶、土人形である。この縄文人の醸す美意識、意表を突いたシュールな感覚のすばらしさ。皆さん、民藝って本当に美しいんです。
 問題を醸すおそれもあるが、街の古民芸店に置いてある商品の大半は民藝の本筋から遠いものである。本筋を知ろうとすれば、駒場の日本民藝館のような厳しい選択眼で選び抜かれた優品の美しさを、しかと眼に焼き付けておく以外ない。
tanaka20016-08-03.jpg大きなことを言ったばっかりに、ハタと困ったのが写真である。もちろん、ぼくは土偶なんて持ちはしない。民藝の本筋はこれだ、というほどの佳品も持ち合わせはない。
 仕方ない、縄文の香りをかすかに残す弥生の小壷を出してきた。今回の写真は、これでご勘弁願いたい。(福岡市在住)