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皆さま この器ご存じですか

田中 孝(摘み・活け・撮り・語る)



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高5.2cm









(12)縄文小壷

 3年ほど前かしら、大和路へ旅した折に、奈良博の前の小さな骨董屋に立ち寄った。一見、須恵器を思わしめる小壷を、主人が大事そうに奥から出して来た。ちょっと様子がおかしいなあ。須恵なら、その辺の棚に放り出しておくだろうに。 手にとって、じっと眺める。口辺をあらためると、須恵ではない。紛うかたなき縄文である。しかも完器。
 この主人、眼力は確かだ。信用できる。とはいえ、骨董屋の常として、仕入れるときは時代を若くいう。きっと、この小壷も「あぁ、須恵器だね」なんて調子で、須恵の値段で買ってきたにちがいない。そして、縄文と見抜く客にだけ売る算段なのだ。旅先の楽しみに好んで買う欠けた弥生などとは一桁ちがう値段に決まっている。
 とにかく、これ一点だけで、ぼくの旅の小遣いは消えてしまう。「いいもの拝見しました」と主人に返した途端、「それ、私がいただきます」。カミサンの一声で勝負は決まった。「茶入れにするから、牙蓋(げぶた)と仕覆(しふく)の古裂を探してください」。とどめの一撃である。参ったなあ。和尚は門前の小僧の買いっぷりに完敗してしまったのだ。
 この壺、最初から花を生けるには使いにくいと思っていた。しかし、一度は何か活けてみたくなる。ちょうど庭に白の立浪草(たつなみそう)が咲き始めた。とにかく、やってみよう。
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 立浪草は、唇状の小花が一つ方向に盛り上がって咲くさまが、岸辺に打ち寄せる浪頭と似ているから、この名がついたのであろう。紫花もあるが、白の方が清楚にして端正である。
 そんなこと考えながら、夢中で活けたが、花が器にしっくり収まらない。いやはや、今月は、器、花ともにぼくの完敗である。(福岡市在住)