漆の家でなんしょん? (01)漆の家について
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はじめまして、瀬戸内海を望む香川県高松市からフェリーで約40分。男木島にある“漆の家”です。いきなり漆の家といわれても“?” だと思いますので、まずはそこからお伝えします。 2010年瀬戸内国際芸術祭の作品とするため、2009年から活動を開始。香川県を代表する漆芸家・北岡省三・大谷早人の両氏を中心に、若手の漆芸家とともに、プロジェクトを立ち上げました。それにより、漆に直に触れ、感じてもらえる場を創出しました。
あまり知られていませんが、香川県は石川県・輪島に引けを取らないほど、“漆”が盛んで、5技法(蒟醤、存清、彫漆、後藤塗、象谷塗)が国の伝統的工芸品に指定されているのです。全国に2つしかない、県立の漆工家を育成する漆芸研究所も高松市にあります。
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平地がほとんどなく、斜面に民家が並ぶ男木島の風景
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漆の家は、代表を務めている大谷早人氏のご実家。数十年手を付けられていなかった納屋と母屋を、建築家、デザイナー、ディレクターたちと様々な方の協力を得て、“漆の家”をつくっていきました。現在、アートスペースとなっている“黒い部屋”、“白い部屋”は元々納屋だったとは思えない仕様になっています。
香川漆の技法のひとつ、“彫漆”を施した“黒い部屋”
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香川漆の特徴、“色漆”を使っています
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“黒い部屋”は、彫漆のパネルを漆の家のメンバーで作成。この彫漆ですが、色漆(※1)を何層にも塗り重ね、その層を彫ることによって下層の色を出して表現する技法です。黒い部屋では白い漆から、青や紫などの濃い色へとグラデーションにしながら約20回塗り重ねて行きます。乾かすのに最低1日は要し、研ぎ(※2)という行程を加えコツコツと作業を繰り返していきます。すると、黒いパネルが完成! そこからさらに、丸い型に沿って荒いやすりから細かいやすりへと削り、最終的に丸い凹面に磨き上げます。
2010年の瀬戸内国際芸術祭では、“黒い部屋を宇宙に見立て、自分の新たな星をつくる……” というイメージで、実際に来場いただいたお客様に丸い円を彫る作業をしていただきました。黒い部屋にいらしたときは、ぜひひとつひとつをじっくり見てみてください。中にはちょっといびつなものもあるのですが、それもまた味なんです。おすすめは、テーブルとイスがあるので、ぼーっとそこに座って、星たちをながめること。なんだかこころが落ち着いてくるんです。
シナの薄板を網代編みし、瀬戸内海の
夕日をイメージ床も壁も漆の“白い部屋”
編む幅を変えることで、波模様を表現
“白い部屋”は、壁も床も漆。麻布を糊と漆を混ぜたもので、その上に白い漆を2〜3回塗っています。漆を踏める機会はそうそうありません。触ったり、座ったり、寝転がってみてください。押し入れのような扉を開くと、網代編みした白から朱の夕日をイメージした波模様のグラデーションが眼に飛び込んできます。シナの薄板に2〜3回漆を塗り、編んで行きます。この網代編み、竹籠などをつくるときに用いられますが、編み目の美しさや、漆の素地としても形が狂わないと重宝されています。
また、この部屋の窓からは、瀬戸内海のおだやかな海を感じていただけるはずです。
と、簡単に漆の家について説明してきました。次回からは、現在漆の家で行っている作業について漆工さんたちに話を聞いて行きます。
(※1)
色漆:朱合漆という半透明の漆に色粉(顔料)を混ぜてつくります。
(※2)
研ぎ:表面を平らにするのと、塗り重ねる次の漆との密着性を高めるために、塗りのあと毎回行う作業。