地域の信仰の対象として代々受け継がれてきた仏像。いつの時代でも修理が行われて次の世代へと受け渡されてきました。現代の受け渡す役割を担っているのが、仏像修復師。新潟の工房で修理を続けている松岡誠一さんに仏像の修復について語っていただきます。
□
(02)「保存環境の話」
2019-08-22
□
じめじめした梅雨の季節になりました。うちの庭の梅の実も大きくなってきました。収穫の時期です。
この時期は、仏像の保存環境に気をつけなければいけない季節です。湿度が高いと木を食べる「害虫」や「カビ」が発生しやすくなります。木を腐らせる「腐朽菌」も活発に。
また、この時期には、調査をする場合にも気を使います。湿気と気温で接着剤の膠が緩みがちになっているから。御像を保存していくには、湿気は大敵なんです。
秋のカラッとした時期に、お堂の扉を開け放ち、掛け軸などを掛けて虫干しするのも昔からの日本人の知恵。お寺でも年中行事にしているところもあります。
奈良東大寺の正倉院でも毎年11月に曝凉(ばくりょう)が行われています。
閉め切りにしないでたまに空気を入れ替えすることも必要。「目通し、風通し」が長く保つポイントなんです。
でも、乾燥しすぎると木材は収縮します。乾燥と湿潤を繰り返すことで、木の動きに表面彩色や漆塗膜がついていけなくて剥離・剥落してしまいます。
なので、一年を通してみると、割と温湿度変化の少ないお寺は保存環境に適しています。千年も仏像を伝えているところがある所以です。
掛け軸を桐の箱に入れておくのも、箱の外の環境の変化を緩和するのには非常にいい。正倉院では、足の付いた大きな木の箱の唐櫃(からびつ)も保存には重要な意味を持っていました。
日本には、木とか絹とか紙とか、わりあい脆弱な素材の文化財が伝世品として伝わってきています。それぞれの時代にそれぞれの人達が大事に伝えてきた結晶です。
虫食いが進行してしまった場合には、早めの修復が肝心です。それ以上虫害が広がらないように燻蒸して虫を殺し、虫穴を補修します。虫穴の損傷だけだと、機械的に虫穴を埋めていくことで、彫刻表面は蘇ります。虫食いそのままにしておくと、彫刻表面が欠失してしまったり、腐朽が始まったりと修復が複雑になります。推定復元する部分が多くなり、オリジナルから離れていってしまうことになります。虫穴を一つ一つ漆木屎(漆+小麦粉+木の粉)で埋めていくのは、わりと根気のいる作業です。
写真は平安時代の御像の虫食いによる損傷。虫穴は埋めて行けばいいが、大きく彫刻表面が欠失してしまったところは推定復元していく必要がありました。
◇
松岡誠一:仏像修復家。先祖が信仰し守ってきた仏像・神像を次の世代に手渡すために修復を行う他、被災した御像の応急修復ボランティアや地域の文化財の保存を支援する活動など。活動は幅広い。東北芸術工科大学(山形市)芸術学科 文化財保存科学コース卒。連絡先は下記リンク参照。
仏像の修復ホームページ
地域歴史文化財保存支援ホームページ